Event Report

「脱炭素に不可欠なグローバル企業の「六方よし」」

- セッションレポート -

2021年11月25日、地方創生、D&I、脱炭素というテーマを掲げた、「日本橋SUSTAINABLE SUMMIT 2021」が開催された。本レポートでは「日本橋SUSTAINABLE SUMMIT 2021」の最後を飾るセッション【脱炭素に不可欠なグローバル企業の「六方よし」】の様子をお届けする。脱炭素に取り組むBCG、BASF、三井不動産が語る、“脱炭素に不可欠なグローバル企業の「六方よし」”とは?

経営コンサルティングファームであるボストン コンサルティング グループ(BCG)、ドイツに本社を置くグローバル化学メーカー・BASF、そして三井不動産という3社の有識者3名が登壇し、環境問題の一丁目一番地と言える「脱炭素」をテーマに各社の取り組みを発表した。さらに、脱炭素のフロントランナー3名によるパネルディスカッションも行われた。

本セッションの冒頭ではファシリテーターであるサステナブルビジネス・プロデューサーの足立直樹氏が、「世界の平均気温の上昇をいかにして1.5度までに抑えるのか。達成目標である2050年を遠い未来と考えるのではなく、今日からでも取り組む必要があるのでは」と問題を提起した。まずは、BCG・BASF・三井不動産の3社が脱炭素に向けて、どのような戦略や取り組みを進めているのか。プレゼンテーションの内容を紹介していく。

「2021年10月に開催されたCOP26において、BCGは唯一のコンサルタンシー・パートナーとして、会議のアジェンダ作成を支援しました。その他にも、国際的なプレーヤーや国内の官公庁、企業の脱炭素に関するアジェンダの検討・支援を行っています」と話すのは、BCGの伊原彩乃氏だ。

同氏は、企業が脱炭素に取り組む背景として、「経済の停滞から抜け出す成長戦略としても大きな意味を持ちます」と語る。「BCGでは、脱炭素を実現させるためには今後30年で、1.2京円の投資が必要だと試算しています」と数字を示しつつ、巨大な市場が生まれる可能性を示した。

また、脱炭素実現のためには、政府・投資家などによる、制度・ルールづくり。消費者・取引企業による意識改革と技術開発。スタートアップによる継続的な技術革新。これら3つのステークホルダーのアクションが重要であり「それぞれがどのようにアクセルを踏むか、注視する必要がある」とポイントを説明した。

次に登壇したのは、BASFジャパンの入江剛氏。BASFはドイツに本社を置く化学メーカーで、全世界で7兆円規模の売上、従業員11万人を誇るグローバル企業だ。2011年にBASF は“私たちは持続可能な将来のために、化学でいい関係をつくります”というステートメントを掲げたという。その後、エネルギー資源を石炭から天然ガスに変えるなど、温室効果ガスの排出量を4,010万t(1990年)から2,190万t(2018年)まで削減。「2030年には2018年比25%削減、2050年には実質ゼロを目指している」とこれからの目標に関して、具体的な数字を交えながら説明していた。

さらに同社は、サーキュラエコノミーの観点から、排タイヤ・排プラスチックのリサイクル推進も進めており、「2021年6月からは三井化学と組み、ケミカルリサイクリングを推進させている」と外部パートナーとの技術開発も紹介。一方、BASFが生み出している4万5,000品目の商品に関しては、二酸化炭素の排出量を可視化したという。「透明性を確保しながら、化学業界全体にこのノウハウを提供していく。また、第三者のソフトウェア会社と組んで、さらなるイノベーションを起こしていきたい」と入江氏は今後の展望を述べ、発表を終えた。

続いて登壇したのは、三井不動産の杉野茂樹氏。日本橋などを中心に不動産事業を展開している三井不動産では、グループ全体で脱炭素に取り組んでいるという。

三井不動産グループでの温室効果ガスの総排出量は約438万tとされ、その88%がサプライチェンーンからの発生であることが分かった。さらに分析を進めると、鉄やセメントを作る時や建物完成後にビルなどの入居者からの排出が多いことが判明。そこで、ビルの下にガスコージェネレーションシステムによる発電施設を作り、周辺ビルや商業施設に電力を供給。「CO2排出を30%削減し、街全体のレジリエンス向上に繋がった」とその効果について説明した。

さらに、メガソーラーも5カ所で稼働させ、電力会社から再生可能エネルギーも購入。建物運用時の温室効果ガス削減を実現させる、ZEB・ZEHの推進も進めている。また、ビルの建材もCO2の発生を抑える、木材の使用を加速。また、三井不動産グループでは北海道に5,000haの森林も所有し、「年間約1万7,000tのCO2を吸収させている」と話す杉野氏。「街全体でCO2削減に取り組むことで、不動産業界が果たす役割が大きくなっている」と、脱炭素における不動産業界の重要性を示唆した。

セッションの後半では、BCG 伊原彩乃氏、BASFジャパン 入江剛氏、三井不動産 杉野茂樹氏の3名によるパネルディスカッションが行われた。ファシリテーターである足立直樹氏から、最初に提示されたテーマは「脱炭素を推進するきっかけや苦労、その乗り越え方」だ。

これに対して三井不動産 杉野氏は次のように回答する。「実は全社的に脱炭素に取り組み始めたのは、最近のことで2019年頃にスタートしました。取り組む上で重要だったのは、経営トップの推進力です。さらに、行政や投資家など外部からの問い合わせも多くなったことも、脱炭素を推進するきっかけの一つになりました」。

一方、「BASFでは、1994年からサステナビリティを経営の根幹に定めていました」と話すのは、BASFジャパン 入江氏だ。「脱炭素が注目を集める以前から着手していたからこそ、今日の取り組みがあるのです。日本法人であるBASFジャパンにおいては、サステナブルロードマップを作って、事業部やお客様を巻き込んで活動しています」。

一方、BCG 伊原氏は、「脱炭素達成を困難にする”3つの特性”がある」と分析。それが、「①影響範囲の広さと複雑さ、②不透明さ、③時間軸の長さ」だ。この3つの特性を解決するためには、押さえておくべき7つポイントがあるという。その中でも、「パーパスに”意識的に”カーボンニュートラルの要素を織り込む」、「経営トップが圧倒的なコミットメントを示す」という2つは特に重要なポイントだと指摘した。

さらにファシリテーターである足立氏は、「社会と共にどのように脱炭素を進めていけばいいのか?」というテーマを提示した。

このテーマついてBCG 伊原氏は、「業界全体を変え、消費者の行動変容を促しつつ、国への働きかけも必要。”団体戦”で取り組むことが重要だ」と主張。実際に、BCG と航空会社10社でNPOを立ち上げ、業界全体で手を組みながら脱炭素実現を目指している事例も紹介した。

パネルディスカッション後に、ファシリテーターの足立氏からセッションのタイトルとなっている【脱炭素に不可欠なグローバル企業の「六方よし」】の、「六方よし」についての解説があった。近江商人の心得としてよく知られる「三方よし」とは、売り手・買い手・世間。これに、地球・未来を加えたという。そして六つ目に何を”よし”とすべきか。ぜひみなさんに考えてみてほしいと会場に投げかけ、本セッションの幕は閉じた。

登壇者の感想コメント

ボストン コンサルティング グループ(BCG) プロジェクトリーダー 伊原彩乃氏

「今回、三井不動産 杉野様、BASF 入江様、足立様とパネルディスカッションをさせていただき、脱炭素に各企業で取り組むだけでなく、パートナーと共に模索すること、そしてそれを仕掛けることがとても大切なフェーズに移ってきていることを特に実感いたしました。また、その重要性について、お三方とお話させていただけたことはとても貴重な機会でした。
実のところ、三井不動産様、BASF様の先進的な取り組みは、各社の発表などを通じて存じ上げている部分もありましたが、やはり直接お話を伺うことで学ぶことは大変大きかったです。また、脱炭素という地球規模で手を取り合って取り組むべき課題だからこそ、オフィスが目と鼻の先にあるという共通点がより議論を闊達に進めるベースになったと感じており、興味深い設定であったと感じています。今回参加させていただき、大いに学びを得たとともに、弊社の話が少しでもご参加された皆様の背中を後押しとなりましたら、と願っております。この度はこのような機会をいただきどうもありがとうございました。」

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