Event Report

「地方創生・SDGsに向けた金融機関の役割について」

- セッションレポート -

2021年11月25日、地方創生、D&I、脱炭素というテーマを掲げた、「日本橋SUSTAINABLE SUMMIT 2021」が開催された。本レポートでは「日本橋SUSTAINABLE SUMMIT 2021」全体の基調講演となる「地方創生SDGs に向けた金融機関の役割について」と、肥後銀行と中国銀行によるパネルディスカッションの様子をお届けする。“地域社会との連携、サステナブルな地方創生への取り組み”とは?

「日本橋SUSTAINABLE SUMMIT 2021」共催者である、サステナブルジャパンカントリーディレクターの鈴木紳介氏から、サステナブルマーケティング、サステナビリティをどう一般の消費者、生活者に伝えていくかという本カンファレンスの趣旨が伝えられた。また、主催の一般社団法人日本橋室町エリアマネジメントの事務局長の黒田誠氏からは江戸時代から文化の中心であり、商人の街でもあった日本橋の紹介がされ、他人を思いやる助け合いの精神が400年の歴史を越えて息づく街でイベントが開催されることへの想いを踏まえた挨拶がおこなわれ、基調講演が開始された。

肥後銀行頭取笠原氏は、今回三部構成で話をしていくと伝えた上で、第一部「肥後銀行と九州フィナンシャルグループの概略と基本としている考え方」についての紹介から講演をスタートさせた。

肥後銀行の歴史、企業理念など基本的な銀行紹介、また鹿児島銀行と共に構成された九州フィナンシャルグループの存在意義と10年ビジョンを動画を用いて説明。中でも10年ビジョンについては、「バックキャストして中継の3年間に何をすべきかを検討するために策定した」と、理想の未来像から逆算する大切さを伝えた。
九州フィナンシャルグループは現在総資産12兆円。全国第8位の地銀グループであり、メインの営業エリアでは熊本で46%、鹿児島で48%のシェアを占め、自己資本比率も高い。また肥後銀行単体についても、銀行業では初めて日本経営品質賞を受賞(2019年)するなどの実態を伝えた。また「潤環」という言葉をテーマに、地域とともに潤いある未来をつくっていくというサステナブルな同行の指針紹介をおこない、第一部を締めくくった。

続く第二部では、サステナビリティ推進に関する各取り組みについて紹介がなされた。
1987年から続く「肥後の水とみどりの愛護賞」、また地下水保全のために購入した52ヘクタールの「阿蘇大観の森」、14万本以上の植樹活動や水源の整備保全活動、田植えや稲刈りなどの水田淡水事業。2020年には、地域資源の保全を両立させた地域経済活性化を目指し、環境省との連携協定も締結。また熊本市が内閣府のSDGs未来都市に選出されたことを受け、熊本市と地方経済総合研究所とSDGs推進に関する連携協定も締結した。様々な環境問題に関する取り組みが評価され、地銀界を代表し環境省、及び自民党との脱炭素に関する意見交換会にも招聘されているという。
2019年にはサステナビリティ宣言をおこない、九州フィナンシャルグループは2018年からサステナビリティ統括室を、肥後銀行はサステナビリティ推進室という専門組織を設置し、本気で持続可能な社会の実現に向け取り組み始めたと言う。グループでは「地域経済の活性化」「気候変動対応環境配慮」「従業員エンゲージメントの向上」「人権尊重ダイバーシティ」「安心安全な街づくり」という5つのマテリアリティを定め、またそれを受けて肥後銀行でも9つのSDGs目標と4つの重要課題を設定した。

一連の取り組みの中から、「サステナビリティリンクローン」という新たな商品も生まれ、大分銀行、鹿児島銀行、肥後銀行、宮崎銀行と連携してSDGs関連投資信託の取り扱いも開始している。県との連携から「熊本県SDGs登録制度」が始まり、地元企業のSDGs取り組みをコンサルとして支援している。すでに600社近い企業が申請しており、県のKPIである2030年に1000社登録に早くも近づいている。また、地元のバイオディーゼル企業と連携した脱酸素の取り組み「わくわく油田プロジェクト」も始まり、銀行の支店スペースを利用して家庭の廃油を回収し、地産地消エネルギーとして地元に還元している。
上記の様に様々な取り組みがおこなわれていることを紹介し、第二部の発表を終えた。

続く第三部では、今後の同行の展望が語られた。
今後避けられない人口減少を全国共通の課題として挙げ、また世界の国々との比較から、恒常的に生産性が低いことを日本ならではの弱点として指摘。また、気候変動によるリスクにも言及。特に水害被害に関しては令和2年7月の豪雨による熊本県人吉市地区の被害を例に挙げ、予測不可能な時代に入ったことを説明した。だからこそ、「未来を予測してバックキャストして今のことを考えないといけない」、と改めて未来から逆算して行動する大切さを説いた。
資本主義というイデオロギーは終焉を迎えつつあるとし、国富論で説かれているように個人や企業が合理的利己的行動を続けていたのでは限界を迎えると今の時代に警鐘を鳴らした。その上で、いくつもの難題が待ち構える未来を諦めるのではなく、手を尽くし理想に近づけていく「意思のある未来」という考え方を提示し、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」に未来よしを加えた「四方よし」な社会を目指していこう、と呼び掛けた。

CSR、CSV、SDGsと、言葉と考え方そのものが移り変わってきたように、これからの企業にはサステナビリティ経営が必須であり、経営そのものがSDGsである必要がある、と企業戦略の変化についても触れた。この考え方を地域に広げなければ、地域自体が損なわれてしまう。この考え方から、先述のコンサルティング活動についての事例を紹介した。
熊本豊田自動車社とセイブグリーン社の事例から、SDGsコンサルティングを通してSDGsの事業への組み入れと自分ごと化による社員のエンゲージメント向上の両方を実現することができたことを報告。同様にコンサル受託を受けている会社がすでに100社ほどある状態であると伝えた。
また、帝国データバンクの調査によると、熊本県はSDGsに積極的な企業の割合が53.5%とその割合が全国1位となったが、その理由の1つとして肥後銀行が他の九州地銀に先行してSDGsを推進し、地域企業の啓発に積極的であり環境が整っていることが理由として挙げられており、肥後銀行の取り組みが評価されていることを大変嬉しく思う、と手ごたえを示した。

「地方の経済も、同様に銀行の経営環境も非常に厳しい状態であり、報道などでは地方銀行全体に対して悲観的な見方がある。また東京から見ると、人口減少が激しく、将来を不安視する人も多いかもしれない。ただ、地方はゆたかな自然や文化あり、感染症の時代においては優位性も多々うまれてきた。地方には課題がたくさんあるが、それを乗り越えればチャンスもたくさんある。地方銀行は地域特有の課題解決を支援する組織であり、金融だけをやる組織ではない」と、現在の環境の厳しさは認識した上で、地方銀行のこれからの在り方についてあらたな定義を提唱。また、「今後は従業員1人1人がお客様や社会に価値創造し提供していくことで、お客様や地域に高く評価される銀行を目指していきたい」と、その決意を伝え、講演を締めくくった。

笠原氏の講演後には、株式会社中国銀行地方創生SDGs推進部次長武田憲和氏、株式会社肥後銀行企画部サステナビリティ推進室長大野隆氏という、SDGsに取り組む地銀のサステナビリティ責任者同士によるパネルディスカッションがおこなわれた。ファシリテーターはサステナブルブランド国際会議ESGプロデューサーの田中信康氏が務めた。

田中氏からイントロダクションとしてサステナブルファイナンスという考え方、また地域ならではの課題に取り組む地銀の重要性が示され、各銀行の地方創生に向けた取り組みに関するプレゼンテーションからパネルディスカッションはスタートした。

中国銀行の武田氏からは、SDGsをキーワードとした関係各所との連携体制の重要性が説かれ、地銀はその中でハブとなりながら共創のための場づくり、プラットフォームづくりを担うべきだと、いくつかの事例を交えながら話がされた。

クラウドファンディングを活用して廃棄果物をウェットティッシュにつくり替えた岡山県の赤磐地域での事例、またSDGs私募債という発行手数料の一部を地元に還元するという新たなスキームが生まれた事例などが紹介された。
「地域の課題は現場の従業員が持っているため、彼らの課題感をどんどん吸い上げることが必要」という考え方が示され、具体的な社内の仕組みとして、6か月間で100時間を新事業のための活動に当てるという「オープンラボ活動」、上司部下関係なく気軽に話ができる「フラットミーティング」などが紹介された。

続いて肥後銀行の大野氏からも、パートナーシップによるサステナビリティ推進事例とその成果が紹介された。

地方債を投資対象として銀行がそれぞれの県に寄付をするという「九州コンチェルト」では、はじめて一ヶ月経たない段階で20億の純資産を越えたこと。SDGs未来都市である小国町自治体との連携協定である「SDGs企業登録制度」も、KPIを達成できるペースで進んでいること。他にも、コロナの影響で仕事が減った県民への支援プロジェクトとしての「マスクプロジェクト」では合計7500名から総額2億4000万円でマスクを買い取れた実績がうまれ、飲食店を応援するための「さしよりプロジェクト」では、クラウドファンディングなどの活用により計500店舗で2500万という目標に対してそれを上回る寄付があったことなどの成果が報告された。
こうした取り組みを通じて、銀行員のやりがいや誇りにもつながっている可能性も伝えられた。

その後のディスカッションでは、成功事例の裏にある課題感にも話題が飛んだ。山積みの地域課題の中から、どう選別をしていくのか、また課題の解決に向けてともに取り組む同志として、従業員と意識を揃えていくことの難しさ。加えて、時代の流れが早く、課題を設定したとしても、結局走りながら対処法を考えているような状態だと、苦労話も聞かれた。とは言え、失敗も含め、率先して試行錯誤に取り組むこと自体に価値があり、そう認識した上で即時的な成果を求めるのではなく、ある程度腰を据えた取り組みが必要になるのでは、と取り組みに対する姿勢の重要性が伝えられた。
また、過去取り組んできた産官学連携の取り組みと比較すると、SDGsという大きな名目のもとに、社内、社外ともに一体感は醸成しやすい状況になってきている、という所感も述べられるなど、様々な視点からディスカッションが展開された。

パネルディスカッション締めのメッセージとして、武田氏からは「地域のかかりつけ医として、一番相談しやすく身近な存在になりたい」と、大野氏からは「単なる金融機関ではなく、地域振興機関として、地域の持続可能性に貢献していく存在になりたい」とそれぞれの未来像が語られた。

ファシリテーターの田中氏からは「最終的には人づくりという視点が大切になる。そのための会社としての評価制度や表彰制度などの仕組みづくりに取り組み、それが地域の、ひいては日本経済の発展に、人的資本の重要性が問われているのではないか」という視点が提示され、パネルディスカッションは締めくくられた。

登壇者の感想コメント

株式会社肥後銀行 経営企画部 サステナビリティ推進室長 大野隆氏

「登壇して再確認したのは、地方創生は1金融機関、1企業だけでは成し得ないということです。つまり地方創生とは、金融機関と企業、地方自治体などさまざまな事業体との連携によって実現することであり、今回のように業界・地域を超えたイベントは、1プラス1の効果ではなく、乗数での効果が期待できるものであるということを改めて認識しました。
実際、異業種の方ともご縁をいただくきっかけがありましたが、脱炭素社会の実現に資するような連携、またその他社会課題の実現につながるのであればあらゆる業界の企業との共創の可能性があると考えています。」

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