Event Report

「SDGs推進に挑む日本橋企業たち」

- セッションレポート -

2021年11月25日、地方創生、D&I、脱炭素というテーマを掲げた、「日本橋SUSTAINABLE SUMMIT 2021」が開催された。本レポートでは、日本橋を拠点とした老舗企業、グローバル企業、スタートアップ企業の3社が野村コンファレンスプラザ日本橋に集結した「スペシャルトークセッション」の様子をお届けする。

PGV株式会社

スペシャルトーク一社目として、PGV株式会社の代表取締役、松原秀樹氏が登壇。大阪大学関谷教授の技術を社会実装する目的でつくられた同社は、大阪大学ベンチャーキャピタルからも出資を受けており、主な事業はブレインテック。具体的には「簡易型の脳波計の開発販売」と「計測した脳波データの解析」であり、脳波を簡易に正確に測る、他社にはない技術により、発達障害や睡眠障害、認知症などの早期発見に貢献できるという。

松原氏によると、以前は脳波を計測するのに複雑な装置をつけ、睡眠技師が2時間ほどかけて計測をしなければいけなかったが、同社の技術では簡易型脳波計とAIを活用して迅速に効率的に計測することが可能になったという。
この技術の展開によっては、現在600万人患者がおり、今も増加中の認知症対策に効果的な手が打てる可能性がある。認知症治療では、いかに早期に、いかに軽度な状態で発見できるかがポイントとされるが、本技術を用いることで、すでに一定の精度で認知症を判別できることが実証された。将来的には、街のお医者さんがAIを活用して脳波計測ができる未来が目指せるという。さらに、一家に一台脳波計という状況がつくれれば、より健康管理に貢献できるのでは、と松原氏は意欲的なビジョンを語った。

また、以前は経済大国と呼ばれた日本の国際競争力が落ちつつあることに憂いを示した上で、スタートアップ企業を活用したイノベーション促進案を提案。具体的には、大学が保有する優れた技術を用いて、スタートアップが商業化の第一歩を進めて、成果が出てきたら大企業のリソースを大胆に投入して事業化していくというもの。そのためにも、スタートアップ企業が優秀な人材を確保できるような制度支援の必要性を訴えた。

株式会社ダイキアクシス

続いて登壇したのは、8か国で水環境ビジネスを展開する株式会社ダイキアクシスの取締役・常務執行役員CIOである大亀裕貴氏。地球規模での水状況の説明からスペシャルトークをスタートさせた。地球上に存在する水は約14億立方km、その97.5%が海水。ただでさえ少ない淡水のうち、人間が使える水は地球全体の水の0.01%であり、地球上すべての水を浴槽1杯分とすると、たったのスプーン1杯分であると、水の希少性を訴えた。

一方、世界の水問題は深刻化していると、水質汚染・水不足・水災害という大きく三つの問題を提示。中でもインドでは人口13億人の約半分6億人が水不足に直面しており、下水処理などのインフラ整備も進んでおらず、国土の約70%が汚染されている状態だという。

同社が掲げるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に触れた上で、企業の歴史、事業の説明をおこなった。特に水処理事業や、小型風力発電の開発売電事業、太陽光発電売電事業、バイオディーゼル燃料の生成事業などの再生可能エネルギー事業に取り組んでいることから、事業活動を推進することで環境貢献ができると考えていると語った。

「世界の水環境の改善、保全に貢献し、よりよい未来をつくる」というミッションを掲げて取り組んでいるのが、世界の水環境への取り組み。具体的には、下水道の通っていない地域に浄化槽を展開し、生活排水による地域の水資源汚染を防いでいく活動だ。同社の浄化槽は、トイレやキッチン、お風呂からの下水を、人間のし尿に含まれる微生物バクテリアを活用して自然環境に放出して問題ないレベルにまでの処理ができる。
新興国では急激な経済成長に伴い都市化が進んでいるがインフラ整備が進んでいないエリアが多く、莫大なコストと建設期間がかかる下水道や水処理施設と比較し、浄化槽は安価ですぐに納入が可能であること点を強みとして展開している。

現在、中国、インド、インドネシアに生産拠点を置き、インド、ミャンマー、スリランカ、ケニア、ベトナム、バングラデシュ、パキスタンの7ヶ国を通して世界各国に28社の販売店を拡げている。世界各国のパートナーと協力をしながら環境貢献を進めていると語った。
最後にメッセージとして、「一人の百歩より、百人の一歩」という日本電産創始者である永森氏の言葉を引用し、多くの関係者との協力連携を呼び掛けた。

株式会社にんべん

「SDGsというよりも、322年という長い期間、商いを続けることができた考え方、それが今後どうつながっていくのかをお話したい」という言葉から、株式会社にんべんの代表取締役社長、高津伊兵衛氏によるスペシャルトークが始まった。1699年の創業以来、同社は鰹節の商いを続けてきたが、その時代から受け継がれてきたある考え方を紹介した。「つくる人・商う人・つかう人」がいてはじめて商売が成立する、というものだ。

同社の成長のきっかけは、江戸時代に「現金掛け値なし」という手法で商売を始めたことだという。当時の習慣としては代金を回収できるのがお盆と年末の二回だけだったため、回収が困難で、お金が寝てしまうリスクもあり、その分を値段に乗せるのが当たり前の時代だった。また、毎回お客様とのやり取りを通して料金を決めていく掛け値という制度が通用していた。この時代にその場でお金と引き換えに定価の商品を渡す「現金掛け値なし」という同社の手法が受け入れられたという。また、鰹節と引き換えることができる商品券制度も発案。これにより鰹節の流通量があがり、同社のキャッシュフローもよくなったという。

さらに、業界の発展と品質の向上、安定を目的とした取り組みについても紹介。鰹節は、カビを意図的につけることにより乾燥し熟成され、うまみが凝縮される。これを本枯鰹節と呼ぶが、このカビを純粋培養し、優れたカビを全国の鰹節屋に無償で提供しているという。以前は生産地ごとに品質にむらがあったが、この取り組みにより、全体の品質が安定して業界標準と呼べる品質が生まれた。くわえて、フレッシュパック技術についても紹介がされた。鰹節は空気に触れるとどんどん酸化が進んでしまう保存の難しい商品であったが、同社が特許を取得したフレッシュパック技術により、その課題を克服。この技術についても同業が使えるよう開放し、さらに業界の品質水準を向上させた。

現在では、鰹節の認知を拡げるため「この国の味、ここから。」というコンセプトを掲げ、出汁という形を通して人々との接点を増やす活動を積極的に進めている。出汁のコミュニティとしての「日本橋だし場(BAR)」、また洋風に出汁をアレンジさせたレストランの運営、食卓に直接届ける商品の開発など、様々な手法で接点をつくっている。
近年の研究の結果から、出汁には消費者の健康に貢献できる要素があると知られてきた。出汁が効果的に使われることによる減塩効果や、糖質を押さえられる献立などだ。認知拡大のための取り組みと合わせ、新たな支持を受けることが増えてきたが、「我々だけでは成立しない」と戒める。「商う人、つかう人」がいて初めて事業ができていると、ステークホルダーとの関係性を重視していく姿勢を改めて強調した。

登壇者の感想コメント

PGV株式会社 代表取締役 松原秀樹氏

「当社は、製薬会社様を筆頭に、ヘルスケアサービス、衣食住に係る業種、教育業界などとの共創を推し進めたいと考えています。そのため、知名度がまだ低いPGVにとって、日本橋の多様な企業が集う本サミットは有用な情報発信の機会でした。このような機会を頂いて感謝しております。今後も継続的な開催を期待していますが、例えば、同じような問題意識のあるスタートアップだけ集めてのトークセッション開催も面白いかも知れません。」

株式会社ダイキアクシス 取締役・常務執行役員CIO 大亀裕貴氏

「多様な企業との連携を図るうえで、SDGsの文脈で弊社事業を紹介できたことは有用でした。今回のようなイベントに参加することで少しでも実現できれば嬉しいですね。サミットの今後においては、今後の世の中を作っていくという意味で企業のみならず学生を呼び込むようなプログラムがあると有意義だと考えます。企業側も学生へのアピールになりますし、学生としても企業を知れる機会となると思います。」

株式会社にんべん 代表取締役社長 高津伊兵衛氏

「日本橋で実際に行われている先行事例があれば、今回のような場で共有・発表するのは有意義だと思います。知人という事であれば、地元の千疋屋総本店の大島社長からサステナビリティ経営について一度じっくりと聞いてみたいです。果物の生産から、販売、そして飲食のところまで、無駄なく使いきっていると思われるので。一方、せっかくの場ですから、イベントへの参加者が増えそうなプログラム内容を検討すべきと考えます。」

記事一覧